【ネタバレあり】『天気の子』深読み感想:『君の名は。』が『天気の子』に与えた呪縛

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tenkinoko01.jpeg ©2019『天気の子』製作委員会

全ワタクシ待望の『天気の子』が、いよいよ公開された。

ネタバレなしの感想はこちらに書いたので、
【ネタバレなし】天気の子感想メモ 〜タイプ別オススメ度〜
今度はネタバレありの感想、
特に『君の名は。』との関係について書きたい。

『天気の子』未鑑賞の人は、公式サイトへどうぞ!
映画『天気の子』公式サイト










ということでここからは、
『君の名は。』と『天気の子』の関係性を軸に、
感じたことを書いていきたい。

『君の名は。』と『天気の子』の共通点、相違点

『天気の子』を語る上で欠かせないのが、
前作『君の名は。』だ。

『君の名は。』の空前の大ヒットについては、ここで繰り返すまでもないが、
今回の『天気の子』に、影響を強く与えたのは間違いない。

まず、両作品の共通点、相違点について見てみよう。

『君の名は。』と『天気の子』の共通点

  1. ボーイ・ミーツ・ガール
  2. 年長者による隠されたルールの示唆
  3. ヒロインの喪失
  4. あの世:隠り世(かくりよ) ↔︎ 彼岸
  5. あの世へアクセスするための特別な場:御神体 ↔︎ 鳥居
  6. 目的達成のための犯罪行為
  7. 再開でのハッピーエンド

新海監督作品の大きな魅力でもある美しい映像は、
『天気の子』でも健在だった。

tenkinoko02.jpeg ©2019『天気の子』製作委員会

tenkinoko03.jpeg ©2019『天気の子』製作委員会

例えば、花火のシーンは、今作でのハイライトの一つだが、
音楽とカメラワークも相俟って、幻想的な美しさに圧倒された。

一方、共通点が多いことの問題として感じたのは、
これは布石で、次はこうなるんだろうなぁ、と
展開が予想できてしまったことだ。

『君の名は。』を予習し過ぎたデメリットだろうか。

『君の名は。』と『天気の子』の相違点

  1. 世界の描かれ方:
    東京ってキラキラしてて、お祭りみたい ↔︎ 東京ってコエ〜
  2. ヒロインを救うことの副作用:
    厄災から町の人を救うこと ↔︎ 首都圏に厄災をもたらす

まず1についてだが、『君の名は。』では、世界が
現実以上に美しく描かれていたことに驚いた。

悪役らしい悪役も、ピザにつまようじを刺した
チンピラくらいで(隕石は人じゃないとする)、
世界は美しかった。

美しく描かれていたことにも理由があるわけだが、
(参考:「君の名は。」公開記念 新海誠監督インタビュー
美しい存在ばかりではない現実と、
向かい合う力を与えてくれるのも、
物語なのではないか。

次は2について。
主人公たちが、目的達成のために犯罪行為を行うのは、
『君の名は。』と『天気の子』でも共通している。
しかし、その副作用が異なる。

前作では、ヒロインを救うことは、
町の人々をも救うことであり、終盤は、
ヒロインの三葉自身が、町の人達を守るために奔走した。

一方今作では、ヒロインを救うことが、
首都圏に災害をもたらすことであるとわかっていた上で、
それを選んだ。
つまり、「世界を敵に回しても、君を選ぶ。」

ここが、意図的に設定された前作と今作の差異であり、
「意見が分かれる」点なのだろう。

その辺りの議論は他の方々に譲るとして、
これはどのような意図で作られた差異なのか
考えてみよう。

『天気の子』の出発点は『君の名は。』への批判

新海監督は、『君の名は。』のビッグヒットの後、
どのような考えで、今作を形作っていったのだろうか

新海監督は、インタビューで以下のように語っている。

僕の映画『君の名は。』を強く批判した人たちに
批判されないようにするべきなのか。
あるいは違うやり方があるのか。
その時に僕が出した結論は
『君の名は。』を批判してきた方々たちが見て
『もっと批判してしまうような映画』を作らないといけない

と思いました。
(中略)
きっと自分自身に作家性のようなものがある、
描きたいものがあるんだとしたら、
その中にこそあるはずじゃないかと思いましたし。
あるいはもっと叱られる映画を作ることで、
自分が見えなかった風景が見えるじゃないかという気もしたんですよね。
「君の名は。」から「天気の子」へ 新海誠監督の格闘 "称賛" "批判"を受けとめて|けさのクローズアップ|NHKニュース おはよう日本

今作『天気の子』は、
『君の名は。』への批判がベースになっている
と言っていいだろう。

『君の名は。』に寄せられた意見は、批判が多かった?

『君の名は。』は、国内だけで1900万人、
国外も合わせると4000万人という、
すごい人数の人が鑑賞した。
(参考:君の名は。 - Wikipedia)

感想も大量に寄せられただろうが、その中には、
批判が多かったのだろうか?

『君の名は。』に対する感想は肯定的なものが多かった

そうではない。
『君の名は。』に対する感想には、
国内外問わず肯定的な意見が非常に多かった。

そうでなければ、今ほどネームバリューがなかった
当時の新海監督の映画に、あの観客動員数は
なしえなかったはずだ。

99の肯定より1の批判が胸に突き刺さる

一方で、それにも関わらず、批判が多く感じられたのは、
これもまた当然のこと
だ。

なにしろ、母数が1900万人という異常な数字。
仮に、肯定的な意見が95%という超高評価であるとしても、
否定的な意見を持つ5%の人だけで95万人もいる
ということになる。
ざっと100万人だ。

結果として、新海監督は、至る所で作品に対する批判を
耳にすることになった。
それは、これまでの作品に対する反応とは、桁が違ったことだろう。
(この状態がわかる人は、日本では宮崎駿だけ)

そして、深いダメージを負ったことは想像に難くない。
自分が心を込めて作り上げた作品に対する批判は、
それだけ心に刺さる
からだ。

村上春樹ですら、自分の作品の感想には
注意深く触れないようにしているそうだ。
(それでも目に入って来てしまうらしい)

批判してくる人よりもファンの方を向いてほしかった

個人的には、上のインタビュー記事を読んで、
「そもそも批判してきた人の方を向く必要なんてない」
のではないかと感じた。

残念なことに、万人が受け入れるものなど存在しない。
それを目指す必要もないと思う。

批判の背後には、もっと膨大な数の、
好意的な意見を持った人たちがいたはず。
個人的には、そちらのファンの人たちを向けた気持ちを、
作品の出発点にしてほしかった

そうしたら、もっと楽しめたんじゃないか(主に私が)。
という勝手な意見が、この記事の主旨となります。

この点について、新海監督のインタビューにも、
気になるものがあった。

今は完成直後、公開直前なんですが、大変落ち着かないですね。 ちょっと前までは自信があったんです。絶対におもしろい映画だと。 少なくとも劇場に来たことを後悔させない、 僕たちは全力をぶつけたんだという自信があったんですけども、 公開が近づくにつれて不安になってきて。 大丈夫だったのかな、スタートから間違えてないかなとか、 そんなことを考えています。 WEB特集 新海誠監督 批判を乗り越えた先に | NHKニュース

想像だが、新海監督自身、『天気の子』のスタート地点が、
『君の名は。』に対する批判であるということに、
疑問を感じていたのではないだろうか。

以下の『君の名は。』公開時のインタビューを読んでみると、
「スタート地点」が違うことがわかるのではないだろうか。

「君の名は。」公開記念 新海誠監督インタビュー| U-NEXT

107分間の観客の気持ちの変化を、 自分の中で完璧にシミュレーションする。 過去の作品では把握しきれなかった時間軸を、 今回は完全にコントロールしようと思いました。 とにかく見ている人の気持ちになって、 できるだけ退屈させないように、 先を予想させない展開とスピードをキープする。 一方で、ときどき映画を立ち止まらせて、 観客の理解が追いつく瞬間も用意する。 それらを作品のどの場面で設けるか、徹底的に考えました。 『君の名は。』新海誠インタビュー前編 「エンタメど真ん中」を志した理由とは - KAI-YOU.net

最後に

クリエイターという人種は、天才だと思う。
我々は、その天才たちが作り出した作品を
ありがたく楽しませてもらっている凡人である。

ただ、クリエイターが生み出す作品を愛するが故に、
色々と物申したくなってしまう。
しかし、実は天才も同じ人間なので、
「凡人からであろうと、批判されたら傷つく」
という当たり前のことを忘れてしまいがちだ。
(この記事は、批判ではなく応援のつもりで書いている)

確かに、チャレンジなしに成長はない。
「もっと叱られる映画を作ることで、
自分が見えなかった風景が見え」たのだろうか。
きっと、そこで手に入れたものを元に、
またすばらしい作品を作り出してくれるのだろう。

ということで、気が早いが、
雑音(この記事を含む)なんか気にせず、
ずっと新海監督を見守っているファン、
『君の名は。』から入った新参者のファン(私含む)、
まだ見ぬ新海監督ファンになる人に向けた作品を
生み出してくれるのを楽しみにしよう。

参考