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suzume00.jpg ©2022『すずめの戸締まり』製作委員会

『すずめの戸締まり』が、2022年11月11日に公開された。
早速、公開初日の11/11に鑑賞した。

大きく心を揺さぶられる、すばらしい作品だった!

またやってくれたぜ、新海監督!

サントラと小説も買ったし、
冷静に考えられるようになったので、
感想と考察を書いていきたい。

<注意!>
タイトルにあるように、作品の内容に
関わること(ネタバレ)を多分に含みます。
映画未鑑賞の人はいますぐ映画館へGO!
映画『すずめの戸締まり』公式サイト










『君の名は。』『天気の子』から『すずめの戸締まり』への流れを振り返る

私は2016年『君の名は。』で全身に強い衝撃を受けた一方、
2019年の『天気の子』では、それほど衝撃を受けなかった。
その理由について考えて書いたのが以下の記事だ。
【ネタバレあり】『天気の子』深読み感想:『君の名は。』が『天気の子』に与えた呪縛 - うむらうす

言いたかったことをまとめると以下の通り。

  • 『君の名は。』は​「とにかく気持ちよく劇場を出てもらえる作品、劇場を出たときになにかがすこしポジティブに変わっているような作品にしたい」​というモチベーションで作られた
  • 一方『天気の子』は​「『君の名は。』を批判してきた方々たちが見て『もっと批判してしまうような映画』」​にしたいという思いがあった
  • 次回作は『君の名は。』寄りになるといいな

では、今回の「すずめの戸締まり」は、どうだったのだろうか?

公式パンフレット掲載のインタビューで、新海監督はこう答えている。

ほんのわずかだとしても、誰かを変える力というのは
大きなものじゃないですか。
自分たちの作る作品にもそういう力が宿り得るんだとしたら、
それはやっぱりなるべく美しいこと、正しいことに
使いたいなと思うんです

「批判してきた人がもっと批判するようなものを作る」という
『天気の子』のスタンスよりも、
「劇場を出たときになにかがすこしポジティブに変わっているような作品」という
『君の名は。』のときのスタンスに立っている
ようだ。

で、実際に鑑賞してみて、どうだったのか。

観終わった感触は、
『すずめの戸締まり』は『天気の子』よりも『君の名は。』に近い
ものだった(個人的にとてもうれしい)。

また、随所に
「観客に『君の名は。』を連想させる仕掛け」
があったように思えた。

『すずめの戸締まり』は『天気の子』より『君の名は。』寄り?

これまでの新海監督作品でも、
過去の作品への言及は見られてきた。

例えば『君の名は。』では
『言の葉の庭』のユキちゃん先生が出ている
し、
『天気の子』では、『君の名は。』の瀧や三葉がそのまま出てくる。

そういう過去作品のキャラクター出演とは別に、
『すずめの戸締まり』には『君の名は。』を想像させる
仕掛けがいくつも感じられた。

例えば以下のような部分である。

1. キービジュアルの空の色

your-name01.jpeg ©2016『君の名は。』製作委員会

tenkinoko02.jpeg ©2019『天気の子』製作委員会

suzume01.jpg ©2022『すずめの戸締まり』製作委員会

『すずめの戸締まり』の空には、彗星はないはずなのに、
彗星っぽい色の雲が見られる。天の川?

2. オープニングでの『君の名は。』の流れの踏襲

『すずめの戸締まり』のオープニングは以下のような流れだった。

夢からの目覚め → テレビの天気予報をバックに朝食 → 登校

これは『君の名は。』の流れそのままで、
これが意図的でないわけがない。

3. シーン転換時の「開け閉め」の描写

『君の名は。』では、シーン転換時に、
「ドアや窓の開け閉め」が使われていたのが特徴的だった。

your-name02.png ©2016『君の名は。』製作委員会

そして『すずめの戸締まり』では、
「鍵の開け閉め」と「扉の開け閉め」が使われている。

suzume02.png ©2022『すずめの戸締まり』製作委員会

これももちろん、意図的でないわけがない。

かと言って、『天気の子』のサインがないわけではない。
例えば、ニュースのBGMとして『君の名は。』の「糸守高校」と共に
『天気の子』の「K&A 初訪問」も使われていた。

鈴芽がチカのバイクに乗せてもらうときのヘルメットは、
『天気の子』で使われていたヘルメットと同じっぽい(うろ覚え)

私は『天気の子』よりも『君の名は。』が好みなので、
『天気の子』を示唆するサインを過小評価している
可能性は否めない。

しかし、『君の名は。』を連想させるサインが
随所に仕込まれている
ことは確かだろう。

「美しい、正しい」ことを描く

これが、本作の根幹に関わる部分なので
詳しく説明していきたい。

新海監督は、2022/11/8出演のNラジで
次のようなことを語っていた。

「君の名は。」「天気の子」と同じことを考えて、
言いたいことが一つあって描いてきたが、うまく伝わらなかった。
今度こそ、この言い方だったらどうだろう?という気持ち。

その『言いたいこと』とはなんだったんだろうか?
『すずめの戸締まり』に入る前に、
『君の名は。』『天気の子』に込められたメッセージを
振り返ってみたい。

『君の名は。』に込められたメッセージ

今回、奥寺先輩が瀧に"君もいつかちゃんと、幸せになりなさい"というセリフがあって、 ちょっと謎めいた言葉にも聞こえるかもしれないけれど、あれはお客さんに対する僕の気持ちでもあるんですよ...
誰かの幸せを願うような作品にできたらいいなと...
日常がいつかなくなってしまうかもしれない感覚って、みんな日に日に強く抱えるようになっていると思うんですよ。でも、あと少しだけでいいからこの状態を続けていたい。好きな人と一緒にいたい。幸せって、そういう切実な想いの中で初めて見いだせるものだとも思うんです。

引用:新海誠監督作品 君の名は。 公式ビジュアルガイド

好きな人と一緒にいたい。幸せになってほしい。
そんな気持ちを応援するメッセージは、
多くの人に伝わっていたはずである。
そうでなければ、興行収入250億円突破という結果は
成し得なかったことだろう。

その一方で、 「震災を利用している」
「震災をなかったことにしている」
というような批判もあった。

これらが新海監督の心に強く刺さったであろうこと、
そしてその批判に対する反動をベースに『天気の子』が
作られたことについては、以前こちらに書いた。
【ネタバレあり】『天気の子』深読み感想:『君の名は。』が『天気の子』に与えた呪縛 - うむらうす

『天気の子』に込められたメッセージ

『天気の子』には、『君の名は。』への批判に対する反動が
根底に含まれていることは既に述べた。

『君の名は。』ではキラキラに描かれていた東京は、
『天気の子』ではバニラカーが走り、犯罪が描かれ、
「東京って怖ぇ〜」場所として描かれた。

『天気の子』の主人公の帆高は、
「青空よりも俺は陽菜がいい!天気なんか狂ったままでいいんだ!」
と東京を水没させた上で「僕たちはきっと、大丈夫だ」と言った。

つまり、「美しく、正しい」ことを描くことの優先度は低かったように思えた。

確かに、『君の名は。』を
「批判してきた人がもっと批判するようなもの」には
なったのかもしれないが、
「異常気象が常態化している世界で生きていく世代には、
それを軽やかに乗り越えて向こう側に行ってほしい。」

という監督の思いがストレートに伝わるには、
ノイズが大きくなってしまったように思う。

(参考: 『天気の子』新海誠監督単独インタビュー 「僕たちの心は空につながっている」 - ウェザーニュース

『すずめの戸締まり』に託されたメッセージ

『君の名は。』では「震災をなかったことにするのか」
『天気の子』では「セカイ系」などという批判もあり、
結果として新海監督は

「言いたいことがうまく伝わらなかった」

と感じたそうだ。

しかしそこで手を緩めず、『すずめの戸締まり』では
ストレートに2011年の東日本大震災に踏み込んだ

これは非常に勇気がいる決断だったと思う。

タイムリープにより被害をなかったことにするのではなく、
地震による被害を未然に防ぐ戦いにすることで、
『君の名は。』への批判を乗り越えた。

東京上空で草太を要石として刺すことで、
世界を犠牲にすることもせず、
『天気の子』への批判を乗り越えた。

クライマックスのシーンでは、
心ある人々と出会い、支えられ、成長した鈴芽自身が、
傷ついている子供の頃の自分自身を救う声をかけた

「あのね、すずめ。今はどんなに悲しくてもね」

「すずめはこの先、ちゃんと大きくなるの」

「だから心配しないで。未来なんて怖くない!」

これまでの作品への批判に真摯に向かい合い、
このシーンを実現するために慎重に組み立てられた、
「美しく、正しい」ことを描いた作品だった。

「今度こそ、これなら、伝わりましたか?」

という新海監督の声が聞こえるようだ。


2011年の東日本大震災では、
私自身も大きな衝撃を受けた。

当たり前と思っていた今日の命が、
実は当たり前ではないこと。
人の力の及ばない、理不尽な力があり、
それはいつどこで誰に牙を剥くのか、
誰にも分からないこと。

だとしたら、どう生きていくのか。
結局、大事な人と、その時その時を
一生懸命生きていくしかないのではないのか。
そんな風に考えるようになったのを思い出した。

私個人としては、『すずめの戸締まり』は、
新海作品の中で最高の完成度を持つ、
まさに集大成と呼ぶにふさわしい作品だ
と感じた。

それでも。
「無神経」「傷ついた」「がっかりした」などと
言う人は出てくるだろう。
どんなに優れたメッセージであったとしても、
100万人中100万人が同意することなどあり得ないのだから。

新海監督は、『すずめの戸締まり』の公開後、
「どう受け止められるか不安で怖くて、よく眠れない」と
話していた。

観客の声を真摯に受け止め、できるだけ多くの人の声に
答えようと、正解を探し続けたのだろう。
とても誠実なスタンスだ。誠実すぎる、とも思える。

おそらく新海監督の次回作は、自然災害からは離れるだろう。
そのときに何を描いてくれるのか。とても楽しみだ。
願わくば、自身の描きたいことを優先してもらえたら、と思う。

その他諸々感じたこと

もうちょっと続くのじゃ。

音楽の方向性の転換

『すずめの戸締まり』でも、音楽には『君の名は。』『天気の子』で
タッグを組んだRADWIMPSが再登板している。 そして、音楽に関しても、『すずめの戸締まり』は
集大成と呼ぶにふさわしい完成度の高さ
だった。

『君の名は。』では、一般的なアニメ映画とは異なり
「夢灯籠」や「前前前世」などボーカル曲が多く採用され、
『天気の子』でもその形は踏襲された。

特に、『君の名は。』のスパークルや、
『天気の子』のGrand Escapeで見せた、
緻密に設計された、圧倒的な歌と映像と融合体験
は、
その後の作品にも影響を与えた。

しかし『すずめの戸締まり』では、ボーカル曲多様の方針は
踏襲されず、楽曲の構成が一変
している。

歌詞の乗った曲は、テーマソングの「すずめ feat.十明」と
「カナタハルカ」だけで、しかもどちらも歌詞の乗った歌は
エンディングでしか流れない。

つまり、『すずめの戸締まり』では、
『君の名は。』『天気の子』で効果が証明された
この強力な武器を使わないという選択をしている
のだ!

効果があるとわかっている武器を使わない
これはなかなかできない、大きな決断だと思う。

「すずめ feat.十明」は、予告編でも歌詞付きで流れていたので、
てっきり作中の重要な場面、例えばクライマックスのシーンで
流れるのだろうと思っていた。

ところが。
鈴芽が子どものすずめと対話するクライマックスのシーンでも、歌は流れない。
しかしそれによって、このシーンの体験が損なわれているのかというと、
そんなことは全くない!

むしろ、
『君の名は。』のスパークルが流れる場面に勝るとも劣らない、
圧倒的な力で心を揺さぶる名シーン

となっている。

他のシーンでも「すずめ」のメロディーは使われていて、
メインテーマとして統一感を持って作品を支えている。

『すずめの戸締まり』では、RADWIMPSに加えて
メタルギアソリッドシリーズや「攻殻機動隊 SAC_2045」の音楽を担当した
陣内一真(じんのうち かずま)氏が参加している。

どのような形で関与されているのだろうか、と思ったらこんな記事を見つけた。
新海誠監督×野田洋次郎×陣内一真、『すずめの戸締まり』を彩る音楽を語り尽くす - THE FIRST TIMES

対談動画はこちら。

陣内氏は映画音楽のプロとして音楽全般に関わっていたようだ。
RADWIMPSの野田氏も語っているように、
『君の名は。』は初の映画音楽制作となるロックバンドが作った音楽として、
いい意味で映画音楽の枠にとらわれない、勢いがある音楽だった。

一方『すずめの戸締まり』では、メッセージ性のあるRADWIMPSの音楽に、
陣内氏により観客の感情を盛り上げるアレンジがなされ、
映画音楽として完成度が高いものとなっていると感じた。

陣内氏がクレジットに入っているのは以下の6曲。
いずれも、作中で重要なシーンの音楽で、
これらに関してはアレンジだけでなく作曲されたようだ。

  • 廃墟の温泉街
  • 廃遊園地
  • 決意〜旅立ち
  • 常世
  • 草太の元へ
  • 戸締まり

特に「戸締まり」は、上で述べたクライマックスのシーンのBGM
ミミズとの対決シーンでは高まる緊張感が。
「戸締まり」では一転して包み込むような優しさと、
感情の盛り上がりが表現されている。

映画の音楽制作の経験も豊富な陣内氏の参加が、
作品に深みを与えたことは間違いないだろう。

サントラには、作中では流れなかった
「Tamaki」と「すずめの涙」の2曲も入っている。

「Tamaki」は、環さんの鈴芽に対する胸の内が描かれている。
「すずめの涙」は、エンディングで流れてもおかしくない曲。
作中で使われなかった理由はわからないが、胸を温めてくれる曲だ。

興味がある方は、ぜひ聴いてみてほしい。

宮崎駿監督へのリスペクト

制作発表時のインタビューで新海監督は、
『すずめの戸締まり』は「魔女の宅急便」の影響を強く受けている
と語っていた。
新海誠×上白石萌音×森七菜『すずめの戸締まり』製作発表会見の舞台裏~The First Door~ - YouTube

直接的には、芹澤カーでかかる「ルージュの伝言」で、
多くの人に自動的に『魔女の宅急便』を連想させる曲だ。
「旅立ちはこの曲」「猫もいるし」というセリフもあった。

話の構造としては、見知らぬ土地で、人の優しさに支えられ、
成長していく主人公
という構図も『魔女の宅急便』を
感じる要素になるだろうか。

他にもいくつか、宮崎作品への言及が見られた

  • Twitterに「リアル耳すま」
  • ミミズは「もののけ姫」のデイダラボッチを連想させる
  • 金色の糸も王蟲のアレを連想させる

考えすぎのところもあるかもしれないが、
随所に宮崎アニメへのリスペクトを感じた。

芹澤カーの選曲センス

「ルージュの伝言」に「夢の中へ」。
神木くん芹澤くん、大学生なのに
随分とシブい趣味してるなーと思っていたら。
小説を読むと、この選曲は、
環さんの年代に合わせた選曲
なのだった。

ごめん、そのやさしさに気付いてあげられなかった...

狐憑き?

唯一、作中で理解できなかったのが、
サービスエリアで環さんが
鈴芽に厳しい言葉を浴びせるシーン。

サントラの曲名は「狐憑き」となっているし、
鈴芽の誰何の声に「サダイジン」と答えているので、
サダイジンが環さんに憑依して言わせたのだろう。

が、その動機がよくわからなかった。

直後に鈴芽を守るため?ダイジンがサダイジンに飛びかかるも、
逆に首根っこを咥えられ帰ってきた。
が、サダイジンを正気に戻すことには成功したようだ。

サダイジンは、何のために環にあのようなことを言わせたのだろうか?
考えてみたが、しっくりくる説明を思いつかなかった。

環と鈴芽の関係性の進展のために
必要なイベントであることは理解できるが、 できればもう少し説明が欲しかった。

また、「ダイジン」はTwitter民の命名だったはずなのに、
なぜもう一体の要石が「サダイジン」なのだろう?
神はTwitterもチェックしてるの?

とか細かいこが気になったりした。

鈴芽が三葉っぽい

『すずめの戸締まり』も、『君の名は。』のように
心を動かされた。

『君の名は。』のときに、なぜ感動したのかを考えたのがこちらの記事。
「君の名は。」はなぜ人を感動させるのか? - うむらうす

簡単に言うと、
共感が強いほどキャラクターへの感情移入が深くなり、感動が強くなる
という仮説だ。

そして鈴芽は、三葉と同じく共感しやすい特性を持っている。

素直、ひたむき、一生懸命 → 応援したくなる

バーで矢継ぎ早の指示にいっぱいいっぱいになって
「え〜〜〜〜!?」と言ってるところとか、
眉間に皺を寄せてスマホを連打しているところとかも、
三葉っぽいな、と思った。

その他気になった点、小ネタなど

  • 鈴芽の部屋で、草太が片付ける本の中に「はつ恋」
  • 鈴芽のお父さんが、瀧くんのお母さんくらい気配がない。草太のご両親も。どこ行ったの?
  • 佐々木特異点
  • 「すごいすごい(棒)」「そうだね(棒)」
  • ついにヒロインの髪型が二つくくりじゃなくなった
  • 足の裏の傷が痛そうで、シャワーの水が当たるときこっちもビクッとした
  • 芹澤のタフな精神を見習いたい
  • クライマックスのシーンに感動した人で、ヴァイオレット・エバーガーデン第10回未視聴の人は、観ると良いと思います

最後に

さて、長々と書いてきましたが、
結論として、『すずめの戸締まり』は、
『君の名は。』『天気の子』を踏まえての、
新海監督作品の集大成
だと思います。

改めて、すばらしい作品でした。
ありがとうございます...!圧倒的感謝...!!


参考になったインタビュー記事やサイトを挙げておきます。

映画『すずめの戸締まり』完成披露イベント映像

当サイトの新海監督過去作品関連記事

  1. 「君の名は。」はなぜ人を感動させるのか? - うむらうす
  2. 「君の名は。」の入れ替わりの謎について考えてみた - うむらうす
  3. 【ネタバレなし】天気の子感想メモ 〜タイプ別オススメ度〜 - うむらうす
  4. 【ネタバレあり】『天気の子』深読み感想:『君の名は。』が『天気の子』に与えた呪縛 - うむらうす