本:脳科学の本いろいろ

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脳科学の本をいろいろ読んだので、まとめて紹介してみる。

まずは記憶についての本から。池谷裕二のブルーバックス本。2001年出版なのでちょっと古いか。

記憶力を強くする—最新脳科学が語る記憶のしくみと鍛え方 (ブルーバックス)
記憶力を強くする—最新脳科学が語る記憶のしくみと鍛え方 (ブルーバックス)
  • 発売元: 講談社
  • 価格: ¥ 1,029
  • 発売日: 2001/01

★★★★☆

 「歳をとると記憶力が悪くなる」「歳をとると物忘れが激しくなる」 というのは良く聞かれるフレーズだ。しかし「それは誤解」と著者は言う。

 確かに歳をとると、神経細胞の総数は減っていく。しかしシナプスの数は逆に増加していくというのだ。このことは、歳をとると記憶容量は大きくなることを示している。

 ただ、年齢によって得意とする記憶の種類が変化するのだ。若いうちは、丸暗記のような記憶に適している。それが歳をとるにつれ、丸暗記の能力は下がるが、その代わり論理だった記憶能力(エピソード記憶)が発達していく。つまり年齢によって得意とする記憶の種類が変わるだけなのだ。従って、歳に応じた記憶の仕方をすることが重要だということになる。

 これだけでもかなり興味をそそられるのが、他に眠りや夢に関する記述もあり、興味深い。全体を通じては、まとめるのがうまく文章もわかりやすい。

 記憶は誰の生活にも密接に関わり、避けることができない。この記憶についての知識を持っておくことは、得にこそなれ、損になることはないだろう。



次も同じ池谷裕二による、今度は対談本。

海馬/脳は疲れない ほぼ日ブックス (ほぼ日ブックス)
海馬/脳は疲れない ほぼ日ブックス (ほぼ日ブックス)
  • 発売元: 朝日出版社
  • 価格: ¥ 1,785
  • 発売日: 2002/07/10

★★★★☆

 池谷裕二と糸井重里の対談本。サラッと読める。

 脳は誰もが持っている、それでいて何をするにも最も重要な器官である。その性質や仕組みについて、もっと知りたいと思って読んでみた。脳については、一般に信じられているけれども、脳科学の研究結果とは異なっているというケースがままあるようだ。例えば睡眠について。

 普通の人は、「睡眠中は脳は休んでいる」と信じて疑わない。しかし実際は、寝ているときも、脳は活発に活動しているそうな。例えば、記憶の固定だ。これは主に睡眠中に起こっているため、暗記物はきちんと睡眠を取った方が成績が良くなるそうなのだ(一夜漬けは記憶に残らないというのは本当らしいですよ)。特にレム睡眠中は、その日にインプットした情報を高速に追体験して、海馬が上方の要不要を取捨選択しているそうな。おもしろい。

 こんな「へー」的なマメ知識や、日常生活に取り入れられそうなノウハウもてんこ盛りでおもしろかった。★4つ。



次も同じ池谷裕二の本。

脳はなにかと言い訳する—人は幸せになるようにできていた!?
脳はなにかと言い訳する—人は幸せになるようにできていた!?
  • 発売元: 祥伝社
  • 価格: ¥ 1,680
  • 発売日: 2006/09

★★★★☆

 「海馬」に続いて脳科学系読み物。今回は対談本ではなく、雑誌(VISA)での連載記事に補足を加えた形。同著者の「海馬」とかぶる内容は多い。サラッと読めるので、気になったところを軽く読むと良いだろう。「海馬」同様、おもしろい知識満載だ。

 個人的に印象に残ったのは以下の点。

  • 海馬:司るのは記憶の保存ではなく創造、環境への適応力
  • 脳細胞は減る一方ではない。新しい空間情報で脳細胞増える(旅とか)
  • ストレスは自覚的なものと自覚できない身体的なものがあり、アルコールは前者を解放するが肝心の後者は変わらない!
  • ストレスは、予測ができ、解消する手段を持っていることで軽減される
  • 「やる気」を出すにはまず手を動かす(作業興奮)
  • 睡眠は記憶を定着させるために必要。寝ないで勉強は暗記には不向き



次は夢について。

夢に迷う脳——夜ごと心はどこへ行く?
夢に迷う脳——夜ごと心はどこへ行く?
  • 発売元: 朝日出版社
  • 価格: ¥ 2,415
  • 発売日: 2007/07/18

★★★★★

 「脳は起きているときは働いていて、寝ているときは休んでいる」という一般的な考えは、実は全く違っている。寝ているとき、特に夢を見ているときの脳は、覚醒時とはモードが違うだけで、活発に活動しているのだ。

 驚くべきことに、夢を見ている時の脳の状態は、薬物などで幻覚を見ている精神錯乱状態の患者と全く同じ特徴を示すという。違いは、起きているときにもイレギュラーに発生するか(精神錯乱)、あるいは寝ているときに規則的に現れるか(正常な夢)だけだ。これらは「似ている」のではなく、脳は「同じ」状態である・・・。

 以上のような脳と心と睡眠についての説明が、睡眠に関する研究で長年第一人者であり続ける著者により、脳科学の研究成果を踏まえながらも、わかりやすく述べられている。

 睡眠時に脳はどう活動しているのか?なぜ夢は覚えていられないのか?なぜ夢は非現実的な設定なのに、その不自然さに気づかないのか?読後はこのような疑問に答えが与えられ、睡眠についての理解が深まるだろう。

 非常におもしろかったので★5つ!オススメ。



次も夢と脳について、もう少し広い内容にわたる本。

脳は眠らない 夢を生みだす脳のしくみ
脳は眠らない 夢を生みだす脳のしくみ
  • 発売元: ランダムハウス講談社
  • 価格: ¥ 2,310
  • 発売日: 2006/03/16

★★★★★

 脳科学の歴史と現在に至る流れを、ジャーナリストである著者が研究者たちを取材し、まとめた本。研究者が書いた本ではないので、一つの立場からの見方だけではなく、複数の考え方について紹介されており(前に紹介した「夢に迷う脳」の内容も含まれている)、意見の対立についても書かれている。例えば、古典的なフロイト心理学派の夢分析と、精神医学からの夢の見方との対立など。

 トピックとしては

  • ・夢が脳のどこから発生しているか
  • ・夢の持つ機能
  • ・明晰夢(「これは夢だ」とわかっている夢)
など。特に夢の機能については一読の価値がある。

 睡眠が、記憶の形成や学習に重要な役割を果たすのは広く知られたことだが、これは人間だけでなく動物にも当てはまるらしい。例えば、鳥は眠っているときにも歌を歌い(脳の活性で測定)、それによって上達しているらしい。人間も、音楽家やスポーツ選手は、練習の1,2日後にパフォーマンスが向上するが、これは睡眠にが関わっているらしい。夢は現実の復習やリハーサルでもあるのだ。

 睡眠が大事だというのは誰もがわかっているだろうが、なぜ大事なのか理解が深まり、また興味もわく。夢や睡眠についての本の中でも、内容も網羅的でかつ読みやすい。とてもおもしろかったので★5つ!



次は脳の機能について。

社会化した脳
社会化した脳
  • 発売元: エクスナレッジ
  • 価格: ¥ 1,575
  • 発売日: 2007/10

★★★☆☆

 脳には、社会的な能力を司る、特定の部位があるのだという。例えば、危険を察知する部位、人の表情を読み取る部位、信頼できるかどうかを判断する部位、人の視線を読み取る部位、などなど・・・

 こういった部位が損傷を受けた人は、これらの行動/判断がうまくできなくなってしまうということや、fMRIでの脳の活性の観察などから、これらのことが明らかになってきているとのこと。

 それでは、これらの部位の働きを効率良く調整、あるいはトレーニングする方法がわかれば、社会的なスキルの改善への効果的な対策となる・・・のかな?


ということで、記憶、夢、脳の機能などについて書かれた本をまとめてみた。 そもそもは「睡眠時間を短くすることはできないか?」と思って調べ始めたのだが、読んでみた感触としては
「必要な睡眠時間はは遺伝で決まってるっぽい」
「むしろ睡眠は記憶の定着に重要。ちゃんと寝ろ」
という感じだった。残念。

その代わりに、脳の働きについてはマメ知識をいっぱい仕込むことができて大満足。 特に夢と睡眠についての2冊はとてもおもしろかった。

今後も関連の本も読んだら、適宜追加していこうと思う。 もし他に良い本があったら、紹介は大歓迎です。



その他の書評などはこちら。
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