「新海誠」と一致するもの

suzume00.jpg ©2022『すずめの戸締まり』製作委員会

『すずめの戸締まり』が、2022年11月11日に公開された。
早速、公開初日の11/11に鑑賞した。

大きく心を揺さぶられる、すばらしい作品だった!

またやってくれたぜ、新海監督!

サントラと小説も買ったし、
冷静に考えられるようになったので、
感想と考察を書いていきたい。

<注意!>
タイトルにあるように、作品の内容に
関わること(ネタバレ)を多分に含みます。
映画未鑑賞の人はいますぐ映画館へGO!
映画『すずめの戸締まり』公式サイト










『君の名は。』『天気の子』から『すずめの戸締まり』への流れを振り返る

私は2016年『君の名は。』で全身に強い衝撃を受けた一方、
2019年の『天気の子』では、それほど衝撃を受けなかった。
その理由について考えて書いたのが以下の記事だ。
【ネタバレあり】『天気の子』深読み感想:『君の名は。』が『天気の子』に与えた呪縛 - うむらうす

言いたかったことをまとめると以下の通り。

  • 『君の名は。』は​「とにかく気持ちよく劇場を出てもらえる作品、劇場を出たときになにかがすこしポジティブに変わっているような作品にしたい」​というモチベーションで作られた
  • 一方『天気の子』は​「『君の名は。』を批判してきた方々たちが見て『もっと批判してしまうような映画』」​にしたいという思いがあった
  • 次回作は『君の名は。』寄りになるといいな

では、今回の「すずめの戸締まり」は、どうだったのだろうか?

公式パンフレット掲載のインタビューで、新海監督はこう答えている。

ほんのわずかだとしても、誰かを変える力というのは
大きなものじゃないですか。
自分たちの作る作品にもそういう力が宿り得るんだとしたら、
それはやっぱりなるべく美しいこと、正しいことに
使いたいなと思うんです

「批判してきた人がもっと批判するようなものを作る」という
『天気の子』のスタンスよりも、
「劇場を出たときになにかがすこしポジティブに変わっているような作品」という
『君の名は。』のときのスタンスに立っている
ようだ。

で、実際に鑑賞してみて、どうだったのか。

観終わった感触は、
『すずめの戸締まり』は『天気の子』よりも『君の名は。』に近い
ものだった(個人的にとてもうれしい)。

また、随所に
「観客に『君の名は。』を連想させる仕掛け」
があったように思えた。

『すずめの戸締まり』は『天気の子』より『君の名は。』寄り?

これまでの新海監督作品でも、
過去の作品への言及は見られてきた。

例えば『君の名は。』では
『言の葉の庭』のユキちゃん先生が出ている
し、
『天気の子』では、『君の名は。』の瀧や三葉がそのまま出てくる。

そういう過去作品のキャラクター出演とは別に、
『すずめの戸締まり』には『君の名は。』を想像させる
仕掛けがいくつも感じられた。

例えば以下のような部分である。

1. キービジュアルの空の色

your-name01.jpeg ©2016『君の名は。』製作委員会

tenkinoko02.jpeg ©2019『天気の子』製作委員会

suzume01.jpg ©2022『すずめの戸締まり』製作委員会

『すずめの戸締まり』の空には、彗星はないはずなのに、
彗星っぽい色の雲が見られる。天の川?

2. オープニングでの『君の名は。』の流れの踏襲

『すずめの戸締まり』のオープニングは以下のような流れだった。

夢からの目覚め → テレビの天気予報をバックに朝食 → 登校

これは『君の名は。』の流れそのままで、
これが意図的でないわけがない。

3. シーン転換時の「開け閉め」の描写

『君の名は。』では、シーン転換時に、
「ドアや窓の開け閉め」が使われていたのが特徴的だった。

your-name02.png ©2016『君の名は。』製作委員会

そして『すずめの戸締まり』では、
「鍵の開け閉め」と「扉の開け閉め」が使われている。

suzume02.png ©2022『すずめの戸締まり』製作委員会

これももちろん、意図的でないわけがない。

かと言って、『天気の子』のサインがないわけではない。
例えば、ニュースのBGMとして『君の名は。』の「糸守高校」と共に
『天気の子』の「K&A 初訪問」も使われていた。

鈴芽がチカのバイクに乗せてもらうときのヘルメットは、
『天気の子』で使われていたヘルメットと同じっぽい(うろ覚え)

私は『天気の子』よりも『君の名は。』が好みなので、
『天気の子』を示唆するサインを過小評価している
可能性は否めない。

しかし、『君の名は。』を連想させるサインが
随所に仕込まれている
ことは確かだろう。

「美しい、正しい」ことを描く

これが、本作の根幹に関わる部分なので
詳しく説明していきたい。

新海監督は、2022/11/8出演のNラジで
次のようなことを語っていた。

「君の名は。」「天気の子」と同じことを考えて、
言いたいことが一つあって描いてきたが、うまく伝わらなかった。
今度こそ、この言い方だったらどうだろう?という気持ち。

その『言いたいこと』とはなんだったんだろうか?
『すずめの戸締まり』に入る前に、
『君の名は。』『天気の子』に込められたメッセージを
振り返ってみたい。

『君の名は。』に込められたメッセージ

今回、奥寺先輩が瀧に"君もいつかちゃんと、幸せになりなさい"というセリフがあって、 ちょっと謎めいた言葉にも聞こえるかもしれないけれど、あれはお客さんに対する僕の気持ちでもあるんですよ...
誰かの幸せを願うような作品にできたらいいなと...
日常がいつかなくなってしまうかもしれない感覚って、みんな日に日に強く抱えるようになっていると思うんですよ。でも、あと少しだけでいいからこの状態を続けていたい。好きな人と一緒にいたい。幸せって、そういう切実な想いの中で初めて見いだせるものだとも思うんです。

引用:新海誠監督作品 君の名は。 公式ビジュアルガイド

好きな人と一緒にいたい。幸せになってほしい。
そんな気持ちを応援するメッセージは、
多くの人に伝わっていたはずである。
そうでなければ、興行収入250億円突破という結果は
成し得なかったことだろう。

その一方で、 「震災を利用している」
「震災をなかったことにしている」
というような批判もあった。

これらが新海監督の心に強く刺さったであろうこと、
そしてその批判に対する反動をベースに『天気の子』が
作られたことについては、以前こちらに書いた。
【ネタバレあり】『天気の子』深読み感想:『君の名は。』が『天気の子』に与えた呪縛 - うむらうす

『天気の子』に込められたメッセージ

『天気の子』には、『君の名は。』への批判に対する反動が
根底に含まれていることは既に述べた。

『君の名は。』ではキラキラに描かれていた東京は、
『天気の子』ではバニラカーが走り、犯罪が描かれ、
「東京って怖ぇ〜」場所として描かれた。

『天気の子』の主人公の帆高は、
「青空よりも俺は陽菜がいい!天気なんか狂ったままでいいんだ!」
と東京を水没させた上で「僕たちはきっと、大丈夫だ」と言った。

つまり、「美しく、正しい」ことを描くことの優先度は低かったように思えた。

確かに、『君の名は。』を
「批判してきた人がもっと批判するようなもの」には
なったのかもしれないが、
「異常気象が常態化している世界で生きていく世代には、
それを軽やかに乗り越えて向こう側に行ってほしい。」

という監督の思いがストレートに伝わるには、
ノイズが大きくなってしまったように思う。

(参考: 『天気の子』新海誠監督単独インタビュー 「僕たちの心は空につながっている」 - ウェザーニュース

『すずめの戸締まり』に託されたメッセージ

『君の名は。』では「震災をなかったことにするのか」
『天気の子』では「セカイ系」などという批判もあり、
結果として新海監督は

「言いたいことがうまく伝わらなかった」

と感じたそうだ。

しかしそこで手を緩めず、『すずめの戸締まり』では
ストレートに2011年の東日本大震災に踏み込んだ

これは非常に勇気がいる決断だったと思う。

タイムリープにより被害をなかったことにするのではなく、
地震による被害を未然に防ぐ戦いにすることで、
『君の名は。』への批判を乗り越えた。

東京上空で草太を要石として刺すことで、
世界を犠牲にすることもせず、
『天気の子』への批判を乗り越えた。

クライマックスのシーンでは、
心ある人々と出会い、支えられ、成長した鈴芽自身が、
傷ついている子供の頃の自分自身を救う声をかけた

「あのね、すずめ。今はどんなに悲しくてもね」

「すずめはこの先、ちゃんと大きくなるの」

「だから心配しないで。未来なんて怖くない!」

これまでの作品への批判に真摯に向かい合い、
このシーンを実現するために慎重に組み立てられた、
「美しく、正しい」ことを描いた作品だった。

「今度こそ、これなら、伝わりましたか?」

という新海監督の声が聞こえるようだ。


2011年の東日本大震災では、
私自身も大きな衝撃を受けた。

当たり前と思っていた今日の命が、
実は当たり前ではないこと。
人の力の及ばない、理不尽な力があり、
それはいつどこで誰に牙を剥くのか、
誰にも分からないこと。

だとしたら、どう生きていくのか。
結局、大事な人と、その時その時を
一生懸命生きていくしかないのではないのか。
そんな風に考えるようになったのを思い出した。

私個人としては、『すずめの戸締まり』は、
新海作品の中で最高の完成度を持つ、
まさに集大成と呼ぶにふさわしい作品だ
と感じた。

それでも。
「無神経」「傷ついた」「がっかりした」などと
言う人は出てくるだろう。
どんなに優れたメッセージであったとしても、
100万人中100万人が同意することなどあり得ないのだから。

新海監督は、『すずめの戸締まり』の公開後、
「どう受け止められるか不安で怖くて、よく眠れない」と
話していた。

観客の声を真摯に受け止め、できるだけ多くの人の声に
答えようと、正解を探し続けたのだろう。
とても誠実なスタンスだ。誠実すぎる、とも思える。

おそらく新海監督の次回作は、自然災害からは離れるだろう。
そのときに何を描いてくれるのか。とても楽しみだ。
願わくば、自身の描きたいことを優先してもらえたら、と思う。

その他諸々感じたこと

もうちょっと続くのじゃ。

音楽の方向性の転換

『すずめの戸締まり』でも、音楽には『君の名は。』『天気の子』で
タッグを組んだRADWIMPSが再登板している。 そして、音楽に関しても、『すずめの戸締まり』は
集大成と呼ぶにふさわしい完成度の高さ
だった。

『君の名は。』では、一般的なアニメ映画とは異なり
「夢灯籠」や「前前前世」などボーカル曲が多く採用され、
『天気の子』でもその形は踏襲された。

特に、『君の名は。』のスパークルや、
『天気の子』のGrand Escapeで見せた、
緻密に設計された、圧倒的な歌と映像と融合体験
は、
その後の作品にも影響を与えた。

しかし『すずめの戸締まり』では、ボーカル曲多様の方針は
踏襲されず、楽曲の構成が一変
している。

歌詞の乗った曲は、テーマソングの「すずめ feat.十明」と
「カナタハルカ」だけで、しかもどちらも歌詞の乗った歌は
エンディングでしか流れない。

つまり、『すずめの戸締まり』では、
『君の名は。』『天気の子』で効果が証明された
この強力な武器を使わないという選択をしている
のだ!

効果があるとわかっている武器を使わない
これはなかなかできない、大きな決断だと思う。

「すずめ feat.十明」は、予告編でも歌詞付きで流れていたので、
てっきり作中の重要な場面、例えばクライマックスのシーンで
流れるのだろうと思っていた。

ところが。
鈴芽が子どものすずめと対話するクライマックスのシーンでも、歌は流れない。
しかしそれによって、このシーンの体験が損なわれているのかというと、
そんなことは全くない!

むしろ、
『君の名は。』のスパークルが流れる場面に勝るとも劣らない、
圧倒的な力で心を揺さぶる名シーン

となっている。

他のシーンでも「すずめ」のメロディーは使われていて、
メインテーマとして統一感を持って作品を支えている。

『すずめの戸締まり』では、RADWIMPSに加えて
メタルギアソリッドシリーズや「攻殻機動隊 SAC_2045」の音楽を担当した
陣内一真(じんのうち かずま)氏が参加している。

どのような形で関与されているのだろうか、と思ったらこんな記事を見つけた。
新海誠監督×野田洋次郎×陣内一真、『すずめの戸締まり』を彩る音楽を語り尽くす - THE FIRST TIMES

対談動画はこちら。

陣内氏は映画音楽のプロとして音楽全般に関わっていたようだ。
RADWIMPSの野田氏も語っているように、
『君の名は。』は初の映画音楽制作となるロックバンドが作った音楽として、
いい意味で映画音楽の枠にとらわれない、勢いがある音楽だった。

一方『すずめの戸締まり』では、メッセージ性のあるRADWIMPSの音楽に、
陣内氏により観客の感情を盛り上げるアレンジがなされ、
映画音楽として完成度が高いものとなっていると感じた。

陣内氏がクレジットに入っているのは以下の6曲。
いずれも、作中で重要なシーンの音楽で、
これらに関してはアレンジだけでなく作曲されたようだ。

  • 廃墟の温泉街
  • 廃遊園地
  • 決意〜旅立ち
  • 常世
  • 草太の元へ
  • 戸締まり

特に「戸締まり」は、上で述べたクライマックスのシーンのBGM
ミミズとの対決シーンでは高まる緊張感が。
「戸締まり」では一転して包み込むような優しさと、
感情の盛り上がりが表現されている。

映画の音楽制作の経験も豊富な陣内氏の参加が、
作品に深みを与えたことは間違いないだろう。

サントラには、作中では流れなかった
「Tamaki」と「すずめの涙」の2曲も入っている。

「Tamaki」は、環さんの鈴芽に対する胸の内が描かれている。
「すずめの涙」は、エンディングで流れてもおかしくない曲。
作中で使われなかった理由はわからないが、胸を温めてくれる曲だ。

興味がある方は、ぜひ聴いてみてほしい。

宮崎駿監督へのリスペクト

制作発表時のインタビューで新海監督は、
『すずめの戸締まり』は「魔女の宅急便」の影響を強く受けている
と語っていた。
新海誠×上白石萌音×森七菜『すずめの戸締まり』製作発表会見の舞台裏~The First Door~ - YouTube

直接的には、芹澤カーでかかる「ルージュの伝言」で、
多くの人に自動的に『魔女の宅急便』を連想させる曲だ。
「旅立ちはこの曲」「猫もいるし」というセリフもあった。

話の構造としては、見知らぬ土地で、人の優しさに支えられ、
成長していく主人公
という構図も『魔女の宅急便』を
感じる要素になるだろうか。

他にもいくつか、宮崎作品への言及が見られた

  • Twitterに「リアル耳すま」
  • ミミズは「もののけ姫」のデイダラボッチを連想させる
  • 金色の糸も王蟲のアレを連想させる

考えすぎのところもあるかもしれないが、
随所に宮崎アニメへのリスペクトを感じた。

芹澤カーの選曲センス

「ルージュの伝言」に「夢の中へ」。
神木くん芹澤くん、大学生なのに
随分とシブい趣味してるなーと思っていたら。
小説を読むと、この選曲は、
環さんの年代に合わせた選曲
なのだった。

ごめん、そのやさしさに気付いてあげられなかった...

狐憑き?

唯一、作中で理解できなかったのが、
サービスエリアで環さんが
鈴芽に厳しい言葉を浴びせるシーン。

サントラの曲名は「狐憑き」となっているし、
鈴芽の誰何の声に「サダイジン」と答えているので、
サダイジンが環さんに憑依して言わせたのだろう。

が、その動機がよくわからなかった。

直後に鈴芽を守るため?ダイジンがサダイジンに飛びかかるも、
逆に首根っこを咥えられ帰ってきた。
が、サダイジンを正気に戻すことには成功したようだ。

サダイジンは、何のために環にあのようなことを言わせたのだろうか?
考えてみたが、しっくりくる説明を思いつかなかった。

環と鈴芽の関係性の進展のために
必要なイベントであることは理解できるが、 できればもう少し説明が欲しかった。

また、「ダイジン」はTwitter民の命名だったはずなのに、
なぜもう一体の要石が「サダイジン」なのだろう?
神はTwitterもチェックしてるの?

とか細かいこが気になったりした。

鈴芽が三葉っぽい

『すずめの戸締まり』も、『君の名は。』のように
心を動かされた。

『君の名は。』のときに、なぜ感動したのかを考えたのがこちらの記事。
「君の名は。」はなぜ人を感動させるのか? - うむらうす

簡単に言うと、
共感が強いほどキャラクターへの感情移入が深くなり、感動が強くなる
という仮説だ。

そして鈴芽は、三葉と同じく共感しやすい特性を持っている。

素直、ひたむき、一生懸命 → 応援したくなる

バーで矢継ぎ早の指示にいっぱいいっぱいになって
「え〜〜〜〜!?」と言ってるところとか、
眉間に皺を寄せてスマホを連打しているところとかも、
三葉っぽいな、と思った。

その他気になった点、小ネタなど

  • 鈴芽の部屋で、草太が片付ける本の中に「はつ恋」
  • 鈴芽のお父さんが、瀧くんのお母さんくらい気配がない。草太のご両親も。どこ行ったの?
  • 佐々木特異点
  • 「すごいすごい(棒)」「そうだね(棒)」
  • ついにヒロインの髪型が二つくくりじゃなくなった
  • 足の裏の傷が痛そうで、シャワーの水が当たるときこっちもビクッとした
  • 芹澤のタフな精神を見習いたい
  • クライマックスのシーンに感動した人で、ヴァイオレット・エバーガーデン第10回未視聴の人は、観ると良いと思います

最後に

さて、長々と書いてきましたが、
結論として、『すずめの戸締まり』は、
『君の名は。』『天気の子』を踏まえての、
新海監督作品の集大成
だと思います。

改めて、すばらしい作品でした。
ありがとうございます...!圧倒的感謝...!!


参考になったインタビュー記事やサイトを挙げておきます。

映画『すずめの戸締まり』完成披露イベント映像

当サイトの新海監督過去作品関連記事

  1. 「君の名は。」はなぜ人を感動させるのか? - うむらうす
  2. 「君の名は。」の入れ替わりの謎について考えてみた - うむらうす
  3. 【ネタバレなし】天気の子感想メモ 〜タイプ別オススメ度〜 - うむらうす
  4. 【ネタバレあり】『天気の子』深読み感想:『君の名は。』が『天気の子』に与えた呪縛 - うむらうす

tenkinoko01.jpeg ©2019『天気の子』製作委員会

全ワタクシ待望の『天気の子』が、いよいよ公開された。

ネタバレなしの感想はこちらに書いたので、
【ネタバレなし】天気の子感想メモ 〜タイプ別オススメ度〜
今度はネタバレありの感想、
特に『君の名は。』との関係について書きたい。

『天気の子』未鑑賞の人は、公式サイトへどうぞ!
映画『天気の子』公式サイト










ということでここからは、
『君の名は。』と『天気の子』の関係性を軸に、
感じたことを書いていきたい。

『君の名は。』と『天気の子』の共通点、相違点

『天気の子』を語る上で欠かせないのが、
前作『君の名は。』だ。

『君の名は。』の空前の大ヒットについては、ここで繰り返すまでもないが、
今回の『天気の子』に、影響を強く与えたのは間違いない。

まず、両作品の共通点、相違点について見てみよう。

『君の名は。』と『天気の子』の共通点

  1. ボーイ・ミーツ・ガール
  2. 年長者による隠されたルールの示唆
  3. ヒロインの喪失
  4. あの世:隠り世(かくりよ) ↔︎ 彼岸
  5. あの世へアクセスするための特別な場:御神体 ↔︎ 鳥居
  6. 目的達成のための犯罪行為
  7. 再開でのハッピーエンド

新海監督作品の大きな魅力でもある美しい映像は、
『天気の子』でも健在だった。

tenkinoko02.jpeg ©2019『天気の子』製作委員会

tenkinoko03.jpeg ©2019『天気の子』製作委員会

例えば、花火のシーンは、今作でのハイライトの一つだが、
音楽とカメラワークも相俟って、幻想的な美しさに圧倒された。

一方、共通点が多いことの問題として感じたのは、
これは布石で、次はこうなるんだろうなぁ、と
展開が予想できてしまったことだ。

『君の名は。』を予習し過ぎたデメリットだろうか。

『君の名は。』と『天気の子』の相違点

  1. 世界の描かれ方:
    東京ってキラキラしてて、お祭りみたい ↔︎ 東京ってコエ〜
  2. ヒロインを救うことの副作用:
    厄災から町の人を救うこと ↔︎ 首都圏に厄災をもたらす

まず1についてだが、『君の名は。』では、世界が
現実以上に美しく描かれていたことに驚いた。

悪役らしい悪役も、ピザにつまようじを刺した
チンピラくらいで(隕石は人じゃないとする)、
世界は美しかった。

美しく描かれていたことにも理由があるわけだが、
(参考:「君の名は。」公開記念 新海誠監督インタビュー
美しい存在ばかりではない現実と、
向かい合う力を与えてくれるのも、
物語なのではないか。

次は2について。
主人公たちが、目的達成のために犯罪行為を行うのは、
『君の名は。』と『天気の子』でも共通している。
しかし、その副作用が異なる。

前作では、ヒロインを救うことは、
町の人々をも救うことであり、終盤は、
ヒロインの三葉自身が、町の人達を守るために奔走した。

一方今作では、ヒロインを救うことが、
首都圏に災害をもたらすことであるとわかっていた上で、
それを選んだ。
つまり、「世界を敵に回しても、君を選ぶ。」

ここが、意図的に設定された前作と今作の差異であり、
「意見が分かれる」点なのだろう。

その辺りの議論は他の方々に譲るとして、
これはどのような意図で作られた差異なのか
考えてみよう。

『天気の子』の出発点は『君の名は。』への批判

新海監督は、『君の名は。』のビッグヒットの後、
どのような考えで、今作を形作っていったのだろうか

新海監督は、インタビューで以下のように語っている。

僕の映画『君の名は。』を強く批判した人たちに
批判されないようにするべきなのか。
あるいは違うやり方があるのか。
その時に僕が出した結論は
『君の名は。』を批判してきた方々たちが見て
『もっと批判してしまうような映画』を作らないといけない

と思いました。
(中略)
きっと自分自身に作家性のようなものがある、
描きたいものがあるんだとしたら、
その中にこそあるはずじゃないかと思いましたし。
あるいはもっと叱られる映画を作ることで、
自分が見えなかった風景が見えるじゃないかという気もしたんですよね。
「君の名は。」から「天気の子」へ 新海誠監督の格闘 "称賛" "批判"を受けとめて|けさのクローズアップ|NHKニュース おはよう日本

今作『天気の子』は、
『君の名は。』への批判がベースになっている
と言っていいだろう。

『君の名は。』に寄せられた意見は、批判が多かった?

『君の名は。』は、国内だけで1900万人、
国外も合わせると4000万人という、
すごい人数の人が鑑賞した。
(参考:君の名は。 - Wikipedia)

感想も大量に寄せられただろうが、その中には、
批判が多かったのだろうか?

『君の名は。』に対する感想は肯定的なものが多かった

そうではない。
『君の名は。』に対する感想には、
国内外問わず肯定的な意見が非常に多かった。

そうでなければ、今ほどネームバリューがなかった
当時の新海監督の映画に、あの観客動員数は
なしえなかったはずだ。

99の肯定より1の批判が胸に突き刺さる

一方で、それにも関わらず、批判が多く感じられたのは、
これもまた当然のこと
だ。

なにしろ、母数が1900万人という異常な数字。
仮に、肯定的な意見が95%という超高評価であるとしても、
否定的な意見を持つ5%の人だけで95万人もいる
ということになる。
ざっと100万人だ。

結果として、新海監督は、至る所で作品に対する批判を
耳にすることになった。
それは、これまでの作品に対する反応とは、桁が違ったことだろう。
(この状態がわかる人は、日本では宮崎駿だけ)

そして、深いダメージを負ったことは想像に難くない。
自分が心を込めて作り上げた作品に対する批判は、
それだけ心に刺さる
からだ。

村上春樹ですら、自分の作品の感想には
注意深く触れないようにしているそうだ。
(それでも目に入って来てしまうらしい)

批判してくる人よりもファンの方を向いてほしかった

個人的には、上のインタビュー記事を読んで、
「そもそも批判してきた人の方を向く必要なんてない」
のではないかと感じた。

残念なことに、万人が受け入れるものなど存在しない。
それを目指す必要もないと思う。

批判の背後には、もっと膨大な数の、
好意的な意見を持った人たちがいたはず。
個人的には、そちらのファンの人たちを向けた気持ちを、
作品の出発点にしてほしかった

そうしたら、もっと楽しめたんじゃないか(主に私が)。
という勝手な意見が、この記事の主旨となります。

この点について、新海監督のインタビューにも、
気になるものがあった。

今は完成直後、公開直前なんですが、大変落ち着かないですね。 ちょっと前までは自信があったんです。絶対におもしろい映画だと。 少なくとも劇場に来たことを後悔させない、 僕たちは全力をぶつけたんだという自信があったんですけども、 公開が近づくにつれて不安になってきて。 大丈夫だったのかな、スタートから間違えてないかなとか、 そんなことを考えています。 WEB特集 新海誠監督 批判を乗り越えた先に | NHKニュース

想像だが、新海監督自身、『天気の子』のスタート地点が、
『君の名は。』に対する批判であるということに、
疑問を感じていたのではないだろうか。

以下の『君の名は。』公開時のインタビューを読んでみると、
「スタート地点」が違うことがわかるのではないだろうか。

「君の名は。」公開記念 新海誠監督インタビュー| U-NEXT

107分間の観客の気持ちの変化を、 自分の中で完璧にシミュレーションする。 過去の作品では把握しきれなかった時間軸を、 今回は完全にコントロールしようと思いました。 とにかく見ている人の気持ちになって、 できるだけ退屈させないように、 先を予想させない展開とスピードをキープする。 一方で、ときどき映画を立ち止まらせて、 観客の理解が追いつく瞬間も用意する。 それらを作品のどの場面で設けるか、徹底的に考えました。 『君の名は。』新海誠インタビュー前編 「エンタメど真ん中」を志した理由とは - KAI-YOU.net

最後に

クリエイターという人種は、天才だと思う。
我々は、その天才たちが作り出した作品を
ありがたく楽しませてもらっている凡人である。

ただ、クリエイターが生み出す作品を愛するが故に、
色々と物申したくなってしまう。
しかし、実は天才も同じ人間なので、
「凡人からであろうと、批判されたら傷つく」
という当たり前のことを忘れてしまいがちだ。
(この記事は、批判ではなく応援のつもりで書いている)

確かに、チャレンジなしに成長はない。
「もっと叱られる映画を作ることで、
自分が見えなかった風景が見え」たのだろうか。
きっと、そこで手に入れたものを元に、
またすばらしい作品を作り出してくれるのだろう。

ということで、気が早いが、
雑音(この記事を含む)なんか気にせず、
ずっと新海監督を見守っているファン、
『君の名は。』から入った新参者のファン(私含む)、
まだ見ぬ新海監督ファンになる人に向けた作品を
生み出してくれるのを楽しみにしよう。

参考

観てきました。『天気の子』

色々書きたいことはありますが、
まずは未鑑賞の人向けの感想を書いてみます。
ネタバレあり感想は後で書きます。


さて。

この「天気の子」の評価は、
この映画に何を求めているかによって、
かなり異なるのではないか
、と感じられました。

そこで、大きく以下の4つのタイプに分けて、
それぞれの人たちへのオススメ度を考えてみます。

  1. 映像と音楽の美しさを期待する人
  2. 新海誠監督の昔からのファン
  3. 映像や音楽より、ストーリーを期待する人
  4. 「君の名は。」のような体験を期待する人

自分がどのタイプか、なんとなく頭に浮かべつつ、
参考にしてもらえればと思います。

1. 映像と音楽の美しさを期待する人

◎オススメ!

映像は、文句なしに非常に美しいです。
音楽も、前作同様、RADWIMPSが
がっつりと制作に関わっていたこともあり、
楽曲とのシンクロ度合いもバッチリです。

したがって、
このタイプの人は、「天気の子」を
かなり高い確率で満足できるだろう

と予想します。

2. 新海誠監督の昔からのファン

◎オススメ!

このタイプの人々は、「君の名は。」のずっと前から、
新海監督の歩みを見守ってきた人たちであり、
時に辛辣に、時に暖かく、見守ってきた人たちだと思います。

このタイプの方々は、どんな作品であっても、
様々な意見を持ちつつ、それでいてやっぱり、
新海監督を見守るっていく人たちでしょう。

この人たちは、いつか観ることになるはずなので、
どんな感想を持つかはわかりませんが、さっさと観ましょう。

3. 映像や音楽より、ストーリーや世界観を期待する人

○少し気になるかも?

映像の美しさや、音楽との相乗効果よりも、
世界観や設定、ストーリーの緻密さ、蓋然性の高さ、
メッセージ性などを、映画に求める人も多いでしょう。

私は、この層の人たちによる評価が、
一番低くなるのではないか
と予想します。

というのも、一緒に観た連れがこのタイプで、
「これってなんでなんだろう?おかしくない?」と、
色々な設定の部分が気になってしまったようでした。

この層の人たちは、他のタイプの人たちよりも、
自分の意見を論理的に表現することができるので、
ネット空間では論理的な批判が多くなるのではないか、
とちょっと心配しています。

4. 「君の名は。」のような体験を期待する人

○少し気になるかも?

当たり前ですが、「天気の子」は「君の名は。」とは別の映画です。
新海監督はインタビューでも語っていますが、
「君の名は。」では、様々な肯定的な意見、否定的な意見が、
寄せられ、それで『「君の名は。」で怒らせた人を、
もっと怒らせてやろうという気持ちがあった』
と語っています。

彼らが怒らない映画を作るべきか否かを考えたとき、
僕は、あの人たちをもっと怒らせる映画を作りたいなと。
独占インタビュー!『天気の子』新海誠監督、「君の名は。」批判した人をもっと怒らせたい (2/3ページ) - 芸能社会 - SANSPO.COM(サンスポ)

つまり「天気の子」は、観た人に対して、
「君の名は。」と異なる影響を与えよう、
という意図を根底に作られた作品なのです。

ですから、「君の名は。」と同じような経験を期待すればするほど、
「違う」という感覚に苦しむことになるでしょう。

これは、 「君の名は。」とは別の映画なのです。
別の作品を楽しむ気持ちで臨めば、
余計なショックを受けずに、
素直に楽しむことができると思います。

なんでこんなにくどいかと言いますと、
私はこの4.の層だからです。

別の作品に対して、全く同じ体験など得られるわけがないのに、
期待し過ぎてしまった自分が悪い
のですが。
やっぱりなんかこう、ションボリしてしまったわけです。
観る前の自分に、言ってやりたかった。

でも、私は、4. であると同時に
「1. 映像と音楽の美しさを期待する人」でもあるので、
その部分ではとても満足しています

映像は、天気の描き方は、
それはもうすばらしいものでした。
特にあのシーンのあのへんとか、
あのシーンのあそことかも、ただただ、美しかった。

音楽も、ステキでした。
映像とRADWIMPSの音楽のマッチングは、
すばらしかったと思います(語彙力)。


まとめると、本作に何を求めるかで、
オススメ度が変わると思う
、という話でした。

1. 映像と音楽の美しさを期待する人 → ◎ 2. 新海誠監督の昔からのファン → ◎ 3. 映像や音楽より、ストーリーを期待する人 → ○ 4. 「君の名は。」のような体験を期待する人 → ○

映像と音楽の美しさは超一流品だと思うので、
それだけでも観る価値があると思います。
ただ、ストーリー重視派の人、
「君の名は。」を期待する人に対しては、
ちょっと留保が付くかな
という感じでした。

もちろん、これは個人的な意見なので、
3や4のタイプの人でも、観てみたら大満足!
ということも十分にもありえますし、
ネタバレは怖くないのでTwitterで感想を眺めてみましたが、
すばらしい!と言っている割合が高かったです。

ということで、見ようかどうしようか迷っている人の
参考になれば幸いです。

小説読んでから2回目観るかなー。

〜おしまい〜

「君の名は。」を深読みする

※ネタバレを多分に含みますので、未鑑賞の方はご注意ください

残った謎

「君の名は。」が感動を生む理由について考えたことを、
前回の記事で、お腹いっぱいになるまでたっぷり語った。
「君の名は。」はなぜ人を感動させるのか? - うむらうす

が、いくつか腑に落ちない点があったので、
小説を読んだり、何回も映画を見返したりして考えた。
そのうち、主に他のサイトであまり触れられていない点について、
書いておきたい。

主に、

  • 映画を観て、もっと深く知りたくなった人
  • 映画を何回か観た人
  • これから二回目を観ようという人

向けですが、そうでない方でも、
何かの参考になれば幸いです。

これはあくまで個人的な意見であり、 正しいとかいうつもりは全くありません。 こういう考え方もあるんだな、と読んでもらえれば幸いです。

内容

  • 三葉と瀧の入れ替わりは、同じ日には起きていない?
  • 御神体からの帰り道、入れ替わりが強制終了した後はどうなった?

三葉と瀧の入れ替わりは、同じ日には起きていない?

これは、映画を何回か観て感じた違和感だった。

瀧が初めて三葉の体に入れ替わったのが、仮に9月X日とする。
「夢の中で入れ替わってる」と言うから、私は
9月2日は互いに入れ替わり、つまり
瀧は三葉に入り、三葉は瀧に入った
んだろうな、と思っていた。

三葉が自分のノートに「お前は誰だ?」
見慣れぬ筆跡で書かれているのを見たのは、
入れ替わりの翌日だから9月3日

your_name14.png

©2016「君の名は。」製作委員会(※画像は予告動画からのキャプチャです。以下同様)

とすると、瀧の体に入れ替わった三葉が、 手のひらに「みつは」と書いたとき、
ノートの「お前は誰だ?」はまだ見てなかったのでは? と思った。

your_name13.png

ちょっとややこしいので、表にする。

緑の数字は、ストーリー進行の順番。

日付 三葉の体の中の人 瀧の体の中の人
9月1日 三葉
2日    三葉
瀧の手のひらに
「みつは」と書く。
ノートまだ見てない?
お互いの入れ替わり初日
3日  三葉
ノートに書かれた
「お前は誰だ?」を発見
3日の夜  三葉
「イケメン男子に
してくださーい!」
5日 三葉 ←次の入れ替わり

こんな感じの、違和感を感じたのだ。

ただ、シーン進行が であるおかげで、
観客は、の時点で「お前は誰だ」は見ているので、
で思い出すことに違和感は生じにくいだろう。

はて、どういうことだろうか。

もう一度、映画でのシーンの進行を確認してみる。

  • (1)9月2日
    瀧が三葉の体に初めて入り
  • (2)翌日3日
    三葉がノートに見慣れぬ筆跡の「お前は誰だ?」を発見
  • (3)3日の夜
    豊穣祭で口噛み酒をクラスメートに見られ、
    「東京のイケメン男子にしてくださーーい!」
    と叫んだ。

your_name02.png

  • )その翌日以降、
    三葉が瀧への入れ替わりを初めて体験。
    これは三葉の時間では、4日以降なはず(確か5日)

つまり、

瀧が三葉に入ったのは、9月2日
三葉が瀧に入ったのは、9月5日

ということは・・・こんな感じ?

日付 三葉の体の中の人 瀧の体の中の人
9月1日 三葉
2日   ←瀧初の入れ替わり
3日  三葉
ノートに書かれた
「お前は誰だ?」を発見
3日の夜  三葉
「イケメン男子に
してくださーい!」
5日 三葉  三葉
瀧の手のひらに
「みつは」と書く。
ノートは既に見た!
←三葉初の入れ替わり
それ以降 三葉 ←入れ替わり
同時じゃないこともある

あれ?・・・そうなの?
入れ替わりって、お互いが同時に入れ替わるんじゃないの?

なんか同時に入れ替わらないと、
一人が、瀧の体と三葉の体、両方に入らないといけなくなり
複数の義体を同時に扱う少佐のようなスペックが必要になる
ような気がしていた(©攻殻機動隊)。

しかし冷静に考えると、そもそも3年ずれてるのだから、
上の表の2日も、5日も、
「完全に同じ日に両方に入ってる」わけではない

だから、いいのかな。

三葉も瀧も、
「記憶に一日空白があると、そのときは相手が入ってる」
とだけ理解している風であり、
入れ替わる先の日付は、入れ替わる元の日付の
次の日だとは限らない
のかもしれない。

<結論>

  • 入れ替わりは、同時に起きるわけではない
  • だから、入れ替わる先の日付が、入れ替わる元の日付の
    次の日だとは限らない

御神体へ向かう日、三葉に入った瀧が
「なんで制服着てるの?」と言われるのは、
このことを示しているのかもしれない。

書いてみたら理解できた。スッキリ。

追記

と思ったら、公式パンフレットvol2で、
答えがしっかり説明されていた。

  • 入れ替わりは同時に起きる!(3年ずれて)

矛盾するように思えるが、
説明を読むとそういうことか、と思えた。
なぜそうなるのかは、読んでみてください。

御神体からの帰り道、入れ替わりが強制終了した後はどうなったの?

実は、上のことが問題になるシーンが、もう一つある。
それは、三葉に入った瀧が、御神体へ口噛み酒の奉納を
終えた後の帰り道のシーン
だ。

一葉に、「あんた今、夢を見とるなぁ?」と言われた瀧は、
初めて「眠る」以外のトリガーで、入れ替わりが解ける

次のシーンは、奥寺先輩とのデートの日に目が覚め(10:15)、
自分の涙に気付くシーン。(涙の理由は、次の項目で)

ここで気になるのが、
「あんた今、夢を見とるなぁ?」と言われた後の三葉の体は、
どうなったの?
ということだ。

一葉と四葉が、あの山道の途中から三葉を運び下ろすのは
無理だろうから、自然な解釈は「三葉が中に戻って帰った」
というものだろう。

この場合も、「入れ替わりは同じ日に起きている」とすると、
三葉が、瀧の体と三葉の体、両方に入らないといけなくなり、
なんかおかしくなると思った。

でも、3年ずれてるし、日付もずれてOKと考えれば、
お休みしていた三葉に急な呼び出しがかかっただけで、
特に問題はなさそう
だ。

ということで、このことも、
「入れ替わりは別の日でもOK仮説」
裏付けるものとなった、ような気がする。

追記

ここに関しては、公式パンフを読んでもすっきりしない。
入れ替わりが同時に起きるのだとしたら、
瀧と三葉は同時に突然元に戻ったのだろうか?

三葉は、東京行きの朝、なぜ泣いていた?

your_name04.png

「あれ?私・・・なんで?」
(みたいなセリフだったと思う)

このシーンの涙の理由だが、
「瀧のことが好きになり始めているから、
瀧が奥寺先輩とのデートするのがイヤ」
という解釈が多いようだ。

それはそれでステキな解釈なのだが、
付け加えて別の可能性を提示してみたい。

それは、
「もう入れ替わりが起こらない、
つまり瀧との別れを予感しているから」

というもの。

避難をしないケースでは、
もう入れ替わりは起こらないため、
このままでは、もう瀧と会う機会は永遠に失われてしまう

意識はしていないが、
そんな予感に、いてもたってもいられなくなり、
東京に瀧に会いに行った...
のではなかろうか。

こう思うのは、理由がある。
それは、この日(瀧にとってはデートの日)の朝、
目覚めた瀧も、同じように泣いていた
のだ。

your_name12.png

このシーンは、瀧が三葉に入れ替わり、
一葉と四葉と御神体へ向かい、口噛み酒を奉納してからの帰り、
一葉に「あんた今、夢を見とるなぁ?」と言われた直後。
これが涙の理由とは思えず、瀧自身も涙の理由はわかっていない。

この二人の涙、私には同じものに思える。もっと言えば、
大人になってからの二人が、
起きたときに流している涙と同じ理由
、つまり、大きな喪失
を予感したからなのではなかろうか。


ということで、映画を何回か観た人、
あるいはこれから二回目を観ようというような人向けに、
あまり他で書かれているのを見ない点について書いてみた。

他にも、
「三葉に他人が入っていると気付いたのが、
祖母と父だけだったのはなぜ?」

とかも書こうと思ったのだが、
これは他の方が書いているので、いいやと。

まぁざっくり書くと、その二人が入れ替わり経験者だからかなと。
祖母は自分で言っているし、父についての根拠はこちら。

好きな作品について調べるのって、楽しい。
本当に、すばらしい作品をありがとうございます。
観てから何週間経っても、まだ満喫しております。

皆さんが感動したシーン、好きなシーンなど、
web拍手のコメントから教えてもらえるとうれしいです。


もっと深く考えたい人へ

理解を深めるために(参考にした資料など)

小説

新海 誠
KADOKAWA / メディアファクトリー 2016-06-18

100万部突破。
第三者的な視点で描かれる映画とは異なり、
三葉と瀧の視点から、それぞれの内面も語られている。
映画では、表情しかわからなかった彼らの内面が、
ああ、そういうことかとわかったり。

例えば、一度目の御神体からの帰り道、
三葉に入った瀧が、おばあちゃんに
「あんた今、夢を見とるなぁ?」と言われたとき、
瀧が何を考えていたのか、など。

理解を深めたい人には、オススメ。

Another Side(外伝的な小説)

このAnother Sideでは、
映画では詳しく描かれなかった、
三葉(瀧)のバスケ、バス停横のカフェづくり、
テッシーが三葉に協力的な理由、
町長説得(2回目)が成功した理由などがわかる。

特に、映画ではほとんど描かれなかった、
町長の内面が描かれていたのが、非常に良かった。
理解を深めたい人は、こちらもぜひ。

その他資料

新海誠監督作品 君の名は。 公式ビジュアルガイド

新海監督や、安藤作画監督、キャラクターデザインの田中氏、
音楽のRADWIMPSのメンバーなど、
製作スタッフのインタビューも掲載されている。
ストーリーに沿った、映画のシーンも掲載されているので、
映画を見た気分が蘇るところもうれしい。
設定資料などもあり。

新海 誠Walker

新海 誠,コミックス・ウェーブ・フィルム
KADOKAWA/角川マガジンズ 2016-08-26
¥ 2,592

こちらも、インタビュー記事が掲載されている他、
新海監督の過去の作品についても紹介されている。

結局私は「ほしのこえ」「秒速5センチメートル」
「言の葉の庭」も見るに至った。

「君の名は。」は、過去の作品の要素も
多く散りばめられているので、
興味を持った方は、どうぞ。

ユリイカ 2016年9月号

新海誠,神木隆之介,RADWIMPS,丹治匠,中田健太郎
青土社 2016-08-27
¥ 1,147

さすがユリイカ、ものすごく深読みしている人たちの論評が読める。
なるほどなぁ、という視点がいくつも得られた。
個人的には、木村朗子さん、藤津亮太さんの論評が、興味深かった。
一通りの情報を読み終えたら、最後にたどり着くところはコレ、という感じ。

追記

と思ったが、12月発売だけあって、
こちらももう一つの終着点。
小ネタや裏設定がいろいろ明らかに。

君の名は 劇場パンフレット Vol.2

参考にしたサイト

  1. 『君の名は。』大ヒットの理由を新海誠監督が自ら読み解く(上) 新海誠・映画『君の名は。』監督インタビュー|『週刊ダイヤモンド』特別レポート|ダイヤモンド・オンライン
  2. 新海誠監督が「君の名は。」の舞台裏を語った......「映画通に不評でも、大きな層を狙いたかった」 (1/4) - ITmedia ニュース
  3. 『シン・ゴジラ』と『君の名は。』と 〜あの日以降の日本と映画〜
  4. 映画『君の名は。』考察と評論 作品タイトルに込められたテーマとは? ※ネタバレあり!
  5. 『君の名は。』ネタバレ解説!ラストまでのあらすじや伏線、売上などを徹底考察します!
  6. 『君の名は。』深すぎる「15」の盲点
  7. 【ネタバレ】「君の名は」関連年表(アニメ版・小説版・スピンオフ小説版総合)
※ネタバレを含みますので、ご注意ください

2016年8月26日公開の、新海誠監督の「君の名は。」
映画『君の名は。』公式サイト

観客動員数は1000万人を突破(6週連続1位)、
興行収入は130億円を超え、
邦画アニメの歴代興行収入の5位に食い込んでいる。
「君の名は。」興業収入、邦画アニメ歴代5位に 「風立ちぬ」抜く - ITmedia ビジネスオンライン
(数字は2016/10/5現在)

私は9月に入ってから観に行ったのだが、

ものすごく!!感動した!!

その勢いで、すぐさま

という勢い。
私にしては珍しく、えらくハマった。
と同時に、疑問がわき上がってきた。

なんで、こんなに感動したのだろうか?

ネットで感想などを読んでも、
「よくわからないけど感動した」
という意見が結構見られた。

なぜだ?

その理由が知りたくて、また色々本を買った。

ネットの記事もいろいろ読んだ。

再度、映画館で見直した。結局四回観た←人生最多

インプットは一通り終えたので、考えたことをまとめて、
アウトプットしておこうと思う。
読んだ人に、何かの参考になれば幸いです。

※ここで書いていることは、あくまで私の個人的な見解であり、
これが正しいとか言うつもりは全くありません。
こういう考え方もあるんだな、と読んでもらえれば幸いです。
  • どんなシーンで感動したのか?
  • キャラクターへの共感を深めるには?
    • 共感を強める要素
      1. 親近感:キャラクターと共通の思い・体験
      2. 応援したくなるキャラクター:素直さ、ひたむきさ、笑い
      3. 願望の達成:残念な思いの浄化
      4. 映像に合った音楽
    • 共感を弱める要素
      1. 「これは私じゃない」感
      2. 「そりゃないわ〜」感
  • 狙って人を感動させられるものか?
  • それでも残った謎

〜〜〜これ以降ネタバレします〜〜〜


どんなシーンで感動したのか?

私がグッとくるシーンを調べてみたら、
以下のような場面だった。

  • 口噛み酒トリップ中、回想シーンでお母さんの「ごめんなさい...」
  • 同じくトリップ中の、「そこにいちゃダメだ!三葉ーーー!」
  • トリップ後、瀧が三葉へ、最後に入れ替わるところ「生きてる...!」
    your_name05.png
©2016「君の名は。」製作委員会(※画像は予告動画からのキャプチャです。以下同様)
  • かたわれ時
  • 三葉が転んだあとに手のひらを見るところ
  • その後三葉がお父さんと対決するところ
  • 最後に二人が出会うところ

これらを冷静に眺めてみると、単純なことに気付く。
キャラクターたちが泣いているシーンが大半なのだ。

キャラクターが笑えば、一緒に笑うし、
キャラクターが泣けば、一緒に泣く。
要は、キャラクターに感情移入しているのだ。

your_name02.png
↑このシーンは泣かないとこです

これは、別に珍しいことではない。
人間には、目の前の相手が体験していることを
自分も体験しているように感じる、
ミラーニューロンというものがあるからだ。
キャラクターが泣いていれば、グッとくるのは自然なこと。

ただ、「君の名は。」は、
登場人物への感情移入、共感がものすごく深かった
ように感じた。

それは、なぜなのだろうか?

キャラクターへの共感を深めるには?

キャラクターへの共感が強まると、
キャラクターへの感情移入の度合いも深まる。

それでは、「共感」は、
どうすると強まり、どうすると弱まるのだろうか?

自分の感情の動きを観察しながら、考えてみた。

共感を強める要素

  1. 親近感:キャラクターと共通の思い・体験
  2. 応援したくなるキャラクター:素直さ、ひたむきさ、笑い
  3. 願望の達成:残念な思いの浄化
  4. 映像に合った音楽

1. 親近感:キャラクターと共通の思い・体験

現実社会でも、出身地が同じだったり、
学校が同じだたり、趣味が同じだったりすると、
相手への親近感は一気にアップしたりする。
そしてこれは、キャラクターに対しても同じことが起きる。

例えば。
三葉は「都会に憧れる田舎育ちの女の子」
瀧は「田舎を持たない都会育ちの男の子」

三葉や瀧の想いに、
東京への憧れの気持ちを持つ人、
田舎の風景への憧れの気持ちを持つ人、
両方が共感を覚える
だろう。

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他にも、 クラスメートに嫌なことを言われ、
黙って耐えた経験がある人は、
三葉に共感しやすいだろうし、
バイトで怒られた経験がある人は、
瀧(三葉)に共感しやすいだろうし、
親に「わかってもらえない」という気持ちを持つ人は、
三葉に共感しやすいかもしれない。

三葉も瀧も、異世界に生きる勇者ではなく、
現実世界としてリアルに描写される世界に生きる、
普通の(と思える)男の子、女の子
だ。

だからこそ、共感を強める共通の思い・体験が多い
これが、三葉や瀧への共感が強くなる理由の一つだろう。

 

2. 応援したくなるキャラクター:素直さ、ひたむきさ、笑い

共感の一つの形として、「応援したくなる気持ち」がある。
がんばっている姿を見ると、応援したくなるものだ。
結果が良ければ、一緒にうれしくなるし、
結果が残念なら、一緒に残念な気持ちになる。

それでは、「応援したくなる」のはどんな存在だろう?
まず、逆に、応援したくなくなる人を考えてみる。

  • 素直じゃない。文句ばっかり
  • すぐあきらめる
  • すでにものすごく強い

とかだろうか。
それではこれをひっくり返すと、

  • 素直
  • ひたむき
  • 弱い(立ち向かうものに対して)

という感じになる。

三葉や瀧を考えてみる。
大事な目的のために、一生懸命走って、つまづいて転んで...

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気付いたら、がんばれ、と心の中で応援していた。
これもまた、共感の一つの要素なのだと思う。

この応援する気持ちというか、見守る感覚について、
新海監督は、次のように語っている。

そういう気持ちで見られる映画になっていると思うんですが、意図してそのように組み立てたわけではないんです... そういう気持ちが湧くのは、2人に幸せになってほしいと思わされるからなんでしょう... 作品のどこが「見守りたい」「応援したい」という気持ちを喚起するのか、自分ではまだよくわかりません。

引用:新海 誠Walker ウォーカームック

ちなみに、この映画には、
我々視聴者に対する新海監督からの応援メッセージが
含まれているそうだ。

今回、奥寺先輩が瀧に"君もいつかちゃんと、幸せになりなさい"というセリフがあって、 ちょっと謎めいた言葉にも聞こえるかもしれないけれど、あれはお客さんに対する僕の気持ちでもあるんですよ... 誰かの幸せを願うような作品にできたらいいなと... 日常がいつかなくなってしまうかもしれない感覚って、みんな日に日に強く抱えるようになっていると思うんですよ。でも、あと少しだけでいいからこの状態を続けていたい。好きな人と一緒にいたい。幸せって、そういう切実な想いの中で初めて見いだせるものだとも思うんです。

引用:新海誠監督作品 君の名は。 公式ビジュアルガイド

ということで、「応援したい」という気持ちが、
共感を深める一つの大事な要素なのだろう。

この共感を深める要素として、
「笑い」というのもあるようだ。
「笑い」に関して、新海監督は以下のように語っている。

瀧に対してお客さんが笑う、三葉に対してお客さんが笑うと、笑った分だけ彼らのことを好きになってくれる気がするんです。 すると後半で、「あれだけ笑わせてくれた2人が、こんなつらい目に遭ってしまうのか」と、より感情移入してくれる。 キャラクターがお客さんを笑わせるって素敵なことなんだなと、手応えを感じました。

引用:新海 誠Walker ウォーカームック

笑わせてくれる、つまり、楽しい気持ちにさせてくれる
そういう存在には、共感が深まるのだと思う。

ということで、共感の一つ形である「応援したい」という気持ちは、
キャラクターの素直さ、ひたむきさ、笑い、というような部分で
育まれるのではないかと考えた。

 

3. 願望の達成:残念な思いの浄化

生きていると、楽しいことばかりではなく、
思い通りには行かず、残念な想いをすることがある。

あのとき、ああしていればよかった...
あの人と、もっと仲良くなりたかった...
あのとき、あの人に伝えておきたかった...

そんな想いの最たるものが、
大切な人、大切な場所など、大切なものを失う、
ということだろう。

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現実では、一度失ってしまうと、二度と戻らないことも多い。
そして、失って初めて、その大きさに驚愕し、
なぜもっと大事にしなかったもだろう、と後悔する。
そして、その思いを抱え、人生を生きていく。

でも、ストーリーであれば、それを覆すことができる

キャラクターが抱えた残念な想いが救われるとき、
自分の心の中にある、似た想いも浄化され、
心が少し、軽くなる。

脳は、現実の出来事と、空想の出来事が区別できないらしい。
だから、ストーリーの中であっても、願いが叶う事によって、
現実に立ち向かう勇気をもらえるのではないか

新海監督は、インタビューで以下のように語っている。

「励まされた」みたいな意見をもらうことが多くて、自分が歳をとってきたこともあってか、ポジティブな変化を見ている人に与えたいというような気持ちが強くなってきたところに、東宝とこの作品を作ることが決まったんです...とにかく気持ちよく劇場を出てもらえる作品、劇場を出たときになにかがすこしポジティブに変わっているような作品にしたいというのがありました。

引用:ユリイカ 2016年9月号 特集=新海誠 ―『ほしのこえ』から『君の名は。』へ

この目標は、多くの人に対して見事に達せられているように思うのだが、
どうだろうか。

 

4. 映像に合った音楽

観客の心の動きをサポートする要素として、音楽がある

私はきれいな風景が好きなので、
三葉に入った瀧が御神体へ行くシーンで、
山の木々、山頂から眺める御神体、
帰りの夕日に染まる糸守湖の風景の描写に、
うわーっと心が強く動くのを感じた。

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この御神体へ行くシーンでは、
切ない感じのBGM「御神体」がかかる。

御神体
RADWIMPS
¥ 250

音楽は、単体でも心を動かす力があるが、
映像に合っているBGMがかかると、
心の動きは増幅される

RADWIMPSのインタビュー記事では、
曲の変更に合わせて、シーンを20秒延ばした
というエピソードが紹介されている。

それだけ、音楽の持つ心を動かす力を、
フルに活用した
のだろう。
ヴォーカル付きの曲が、4曲もあることからも、
このことがうかがえる。

 

共感を弱める要素

逆に、共感が弱まる要素もあるだろう。

私の考えでは、以下のようなことがあると、
共感が起こりにくい、むしろ弱まるように思える。

  1. 「これは私じゃない」感
  2. 「そりゃないわ〜」感

1. 「これは私じゃない」感

「強める要素」における、「1. 親近感」の逆。

例えば、幸せな話が好きな人は、
不幸な人が多い話は入りこみにくいし、
不幸な話が好きな人は、
幸せな人が多い話は入り込みにくい。

世界やキャラクターたちとの共通点が、
少なければ少ないほど、親近感を持ちにくくなる

のはしょうがないだろう。

2. 「そりゃないわ〜」感

フィクションであれば、作り物の世界であるのは当然。
ただ、よくできた作り物であってほしい
私としては、騙されるのは構わないので、うまく騙してほしい

君の名は。でも、細かく見ていくと、
あれ?と思うところも色々あるのだが、
「作品のつじつまを合わせるための強引さ」
が感じられないこと
が、共感から醒めないための
必要条件だろう。

例えば、三葉と瀧が3年ずれているのに出会えるのはおかしい。
でも、ユキちゃん先生が古典の授業で、事前に
「黄昏時(かたわれ時)」は、この世ならざるものとも
出会っちゃう時間帯だ
と説明していたので、
ああ、あれのことだな、と納得できる(したくなる)。

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入れ替わりが起きる理由についても、
個人的には特に説明はなくてもいい気がしたが、
隕石による災害の回避システムとして
宮水の女性に伝わる能力だと示唆されていた。

もちろん、お話なので、おかしい部分はあるが、
その違和感よりも、共感が強まる要素の方が、
はるかに勝っていた
、ということなのだろう。

逆に、違和感の方が勝るお話だと、
白けてしまい、素直に感動はできなくなる。

 

狙って人を感動させられるものか?

シンプルなエンターテインメントが作りたかったんです。僕のテーマは、思春期の人やその頃の気持ちを引きずっている人たちのコミュニケーションの問題。そこは動かせないけれど、文句なく楽しいものを目指しました。107分の上映時間の中で、1分たりとも退屈させない、サービスし尽くす映画にしたかった。

引用:新海誠監督が「君の名は。」の舞台裏を語った......「映画通に不評でも、大きな層を狙いたかった」 (1/4) - ITmedia ニュース

これまで長々と書いてきたように、「君の名を。」には、
キャラクターへの共感を深めるための様々な要素
散りばめられている。

それは、私の考えでは、

  • 親近感
  • 応援したくなるキャラクター、
  • 願望の達成
  • 映像に合った音楽

というような要素が、
キャラクターへの共感を強め、彼らの感情の動きが、
観ている我々の心にも強く作用した
のだろう。

ここに、最後にもう一つ要素を付け加えたい。
それは、キャラクターの感情の動きが、
どこから生まれたのか
、ということだ。

それは、新海監督の心の中からなのだと思う。

1日15時間、半年間ひたすら作っていました。 体力的にはつらかったけれど、すごくいいものができている、という高揚感があった。 もしかしたら2000年以降で一番面白いんじゃないか、みたいな(笑)。 意図的に"脳内麻薬"が出せる状態に持っていかないと、きついんですよ。 これはすごい、これはすごいと興奮状態でしたね。

引用:新海誠監督が「君の名は。」の舞台裏を語った......「映画通に不評でも、大きな層を狙いたかった」 (3/4) - ITmedia ニュース

監督自身が、作り上げたストーリーに感動しているからこそ、
キャラクターの心も動き、それが観ている我々の心も動かした

のだろう。

現実を生きていて、泣くほど感動することは、
そう頻繁にあることではない。
(あったらすばらしいと思うが)

だからこそ、そんな感動を感じさせてくれるキャラクターが、
ストーリーが、とても心地よかった
のだ。うれしかったのだ。

多分これが、自分がこの作品に強く惹かれた理由なのだろうと、
ここまで書いて、やっとわかってきた。

新海監督自身が、以下のように語っているように、
クリエイターの立場の人からは、
様々な意見も出ているようだ。

オープニングシーンはサービスのつもりです。たぶん、この作品は音楽も物語のテンポも過剰な作品。(人気バンドの)RADWIMPSのようなロックをテーマ曲に採用したこともシネフィル(映画通)には不評かもしれない。でも、そういった層に背を向けられても、新しさや過剰さ、疾走感を「良い」と思ってくれる大きな層を狙いたかった。そういう意味では、僕の決意表明のようなものです。

引用:新海誠監督が「君の名は。」の舞台裏を語った......「映画通に不評でも、大きな層を狙いたかった」 (3/4) - ITmedia ニュース

それでも私は、これだけ多くの人が
「気持ちよく劇場を出てもらえる作品、
劇場を出たときになにかがすこし
ポジティブに変わっているような作品」

になったというのは、すばらしいことだと思う。

心に残る、すばらしい作品をありがとうございました。

みなさんの「このシーンに感動した」というところを、
web拍手のコメントから教えてもらえるとうれしいです。

こうなると、気が早くも次の作品も期待してしまうのだが、

自分としては、この先、もう1本か2本はサービスに徹した作品を作りたい。映画の世界で、自分の居場所や役割、もっというと日本社会の中で、自分の公共的役割を見付けていかないといけない年齢になった気がするんです。

引用:新海誠監督が「君の名は。」の舞台裏を語った......「映画通に不評でも、大きな層を狙いたかった」 (4/4) - ITmedia ニュース

ということなので、新海監督の次回作にも期待したい。

これ以下に、この記事を書くにあたって参考にしたものを
挙げておくので、興味を持った方は、チェックしてみてほしい。

また、今回書ききれなかった、
もっと細かい考察を、続編として書く予定。
書きました! → 「君の名は。」の謎について考えてみた - うむらうす  


理解を深めるために(参考にした資料など)

サントラ

Universal Music =music= 2016-08-24
¥ 2,900

超オススメ。聞くたびに映画のシーンが思い出される。
外を歩いているときに「かたわれ時」とかかかったりすると、
視界がぼやけるので注意。
また、何回も鑑賞しているヘビーユーザーには、
「秋祭り」の音楽は精神攻撃になるので注意。

小説

新海 誠
KADOKAWA / メディアファクトリー 2016-06-18

100万部突破。
第三者的な視点で描かれる映画とは異なり、
三葉と瀧の視点から、それぞれの内面も語られている。
映画では、表情しかわからなかった彼らの内面が、
ああ、そういうことかとわかったり。

例えば、一度目の御神体からの帰り道、
三葉に入った瀧が、おばあちゃんに
「あんた今、夢を見とるなぁ?」と言われたとき、
瀧が何を考えていたのか、など。

理解を深めたい人には、オススメ。

Another Side(外伝的な小説)

このAnother Sideでは、
映画では詳しく描かれなかった、
三葉(瀧)のバスケ、バス停横のカフェづくり、
テッシーが三葉に協力的な理由、
町長説得(2回目)が成功した理由などがわかる。

特に、映画ではほとんど描かれなかった、
町長の内面が描かれていたのが、非常に良かった。
理解を深めたい人は、こちらもぜひ。

その他資料

新海誠監督作品 君の名は。 公式ビジュアルガイド

新海監督や、安藤作画監督、キャラクターデザインの田中氏、
音楽のRADWIMPSのメンバーなど、製作スタッフのインタビューも
掲載されている。
ストーリーに沿った、映画のシーンも掲載されているので、
映画を見た気分が蘇るところもうれしい。
設定資料などもあり。

新海 誠Walker

新海 誠,コミックス・ウェーブ・フィルム
KADOKAWA/角川マガジンズ 2016-08-26
¥ 2,592

こちらも、インタビュー記事が掲載されている他、
新海監督の過去の作品についても紹介されている。

結局私は「ほしのこえ」「秒速5センチメートル」
「言の葉の庭」も見るに至った。

「君の名は。」は、過去の作品の要素も
多く散りばめられているので、
興味を持った方は、どうぞ。

ユリイカ 2016年9月号

新海誠,神木隆之介,RADWIMPS,丹治匠,中田健太郎
青土社 2016-08-27
¥ 1,147

さすがユリイカ、ものすごく深読みしている人たちの論評が読める。
なるほどなぁ、という視点がいくつも得られた。
個人的には、木村朗子さん、藤津亮太さんの論評が、興味深かった。

参考にしたサイト

  1. 『君の名は。』大ヒットの理由を新海誠監督が自ら読み解く(上) 新海誠・映画『君の名は。』監督インタビュー|『週刊ダイヤモンド』特別レポート|ダイヤモンド・オンライン
  2. 新海誠監督が「君の名は。」の舞台裏を語った......「映画通に不評でも、大きな層を狙いたかった」 (1/4) - ITmedia ニュース
  3. 『シン・ゴジラ』と『君の名は。』と 〜あの日以降の日本と映画〜
  4. 映画『君の名は。』考察と評論 作品タイトルに込められたテーマとは? ※ネタバレあり!
  5. 『君の名は。』ネタバレ解説!ラストまでのあらすじや伏線、売上などを徹底考察します!
  6. 『君の名は。』深すぎる「15」の盲点
  7. 【ネタバレ】「君の名は」関連年表(アニメ版・小説版・スピンオフ小説版総合)