奥田 健次
集英社 2012-11-16
¥ 799
★★★★★
どんなに理不尽な行動でも、
習慣化している行動には、
その行動から受ける報酬がある。
その仕組みを理解することで、
自分の行動も、他人の行動も、
変えることができる。
「行動分析学」というものなのだが、
特徴は行動の「原因」だけではなく、
「結果として得られるもの」を分析するところ。
一日何十回も奇声をあげる子供がいる。
この子は、精神的に不安定、興奮する、
だから声を上げる、ということも言える。
しかしここでは、その結果を見る。すると、
「奇声を上げると母親が抱いてくれる」という結果
こそが、この子の行動を習慣づけている、
ということが見えてくるのだ。
従って、対策としては、
「奇声をあげたら母親がいなくなる」
「静かにしていたら母親が抱いてくれる」
というように、行動の結果からの調整を行う。
この方法で、この子は2週間で奇声を上げなくなったそうだ。
この行動の見方を「行動随伴性」と言う。
育児において絶大な力を持つのはもちろん、
大人に対しても、同じ効果を持つ。
この本で語られるのは、
好子(うれしいこと)・嫌子(いやなこと)
×
出現・消失
の4つの場合付けで、人間の行動の動機付けが
かなり自在に操れる、ということだ。
好子(いいこと)の出現、
嫌子(いやなこと)の消失は、
ともにモチベーションアップなのだが、
その中身は異なる。
好子出現→ポジティブな動機
嫌子消失→ネガティブな動機。ドーパミン
好子出現の方が、質の良い動機であると言える。
だからこそ、ムチは危険なのだ。
この本で語られる内容は、いわば
「外部報酬活用の精緻化」
と言える。
「報酬主義をこえて」を読むと、
外部報酬は、内部報酬には勝てずイマイチ、
と思っていたのだが、そうとは限らないようだ。
好子出現は、最初は目的と動機がずれていてもいい。
行動しているうちに、随伴する好子が得られ、
行動自体が楽しくなるかもしれない。
そうなれば、それは内部報酬となる。
それでいいのかもしれない。
知っているのといないのとで、
自分に対しても、他人に対しても、
接し方が変わる力を持った本。
特に、育児をしている人には、
とても役立つ知識だと感じた。
最後に、ちょっと長いが、
なるほど、と思った部分を引用する。
DVや虐待やいじめにしても、
習癖や依存症や不安障害にしても、
あらゆる社会上の問題について、
当事者らがどう主張するかに
惑わされる必要はない。
ついつい、通常では理解できないような
行動をしている人がいる場合、
その行動をしている本人が言っていることが
真実であると思いたくなるかもしれないが、
ほとんどの場合、本人すら行動の機能に
気づいていないか、うっすら気づいていても
動機は隠したいものなのである。
したがって、行動の本当の原因を
しるために大切なことは、
その行動がどのような行動随伴性によって
増減してきたのか、
人それぞれの好子や嫌子を見極めることに
他ならない。
奥田 健次
集英社 2012-11-16
¥ 799